Readings
-よみもの-
第5回 入赏作品
黒い手
春先になると无性に食べたくなる品がある。ツワブキの炒め煮だ。
毎週末。頬をなでる风に春の気配を感じるようになると、小学生の僕は母に连れられて野山に分け入り、产毛のついたツワの若芽を摘み集めた。下処理のため皮を剥けばアクで手は黒ずみ、石鹸で洗っても数日间は取れない。初めは手伝っていた僕も、细かい手作业と汚れることに嫌気が差し、いつしかその作业は母に任せきりになった。
六センチ前后に切り揃えたツワを油で炒め、だし汁、味醂、酒、醤油でイカと一绪に煮込む。この时期、その品は毎日、食卓に上った。ほろ苦い独特の风味は子どもの舌には大人すぎる味で、正直あまり箸は进まなかった。
忘れもしない中学一年の春、部活の地区大会に持たされた弁当にそれは入っていた。
「その泥色っぽいん、何?」
悪気はなかったのだろう。弁当箱を覗き込んだ友人の軽口に颜が硬直した。なぜか无性に耻ずかしかった。
「弁当にまでツワ入れんなや。つか、その手も汚ねえし」
反抗期のはしりだった。帰宅するやいなや、心无い言叶が口をついて出た。母はハッとしたように両手を后ろに隠すと、「それは悪かったねえ」と翳った表情で微笑んだ。以来、我が家の定番メニューは食卓から远ざかった。
今なら分かる。七人兄弟の四番目として生まれた母の生家は决して裕福ではなかった。母自身の好物でもあったのだろうが、山野で採れるツワは贵重な自然の恵みだったのだろう。イカ钓り渔师の父と结婚して生活が安定してからも、赘沢とは无縁の人だった。
数年前。野菜直贩所で见かけたツワを买い求め、自分で调理したことがあった。皮を剥き、炒めて调味料を合わせる。口に入れてハッとした。舌先に残る何本もの繊维。母の黒ずんだ手は、丁寧に下処理をしてくれていた証だったのだ。思わず电话をかけた。
「あん时はごめん」
照れ臭くて世间话に纷れ込ませてしか伝えられなかったが、やっと言えた。
「何か食べたいもんあるね?」
五月の大型连休直前になると、必ず母が讯いてくる。
「ツワある?」
面はゆさを抑えて素直にそう口に出せる程には僕も成长した。醤油の染みた、ほろ苦い独特の风味をおいしく感じるようにもなった。
「もっとええご驰走でも言やあええんに」
それでも母は声を弾ませる。ここ数年、繰り返されるやり取りを経て帰省すると、駅まで迎えに来てくれる母の指先はやはり黒ずんでいる。もう汚いとは思わない。僕にとって何よりのご驰走を作り出すしらえてくれる美しくて爱おしい両手だ。
INFORMATION
「黒い手」
北村 大次さん(福岡県?41歳)
※年齢は応募时
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